疾患について

膝の疾患

変形性膝関節症

概要

中高年の膝の痛みの大部分を占める疾患で、関節軟骨・半月板がすり減ることにより(図1)、O脚などの膝関節の変形を生じます。原因は加齢が主ですが、靭帯断裂、関節内骨折などの外傷後に進行する場合もあります。

診断

症状

初期には膝の裏(膝窩部)の張るような感じや、動き始め(立ち上がり)の痛み、膝が伸び切らないなどの症状が出現し、腫れて水が貯まることもあります。すり減りが進むとO脚変形が進み、歩行困難になる場合もあります。

診断

レントゲン検査で、特に立った状態での関節の隙間、変形の程度を確認します。(図2)

診断

治療

軟骨のすり減りや骨の変形が少ない初期には、痛みを軽くする内服薬(消炎鎮痛剤)や、外用剤(湿布)で治療しながら、太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛える“筋トレ”をしてもらいます。
痛みが強い場合は、膝関節への注射(ステロイド剤、ヒアルロン酸Na)をすることもあります。
また、主にO脚変形に対して、靴の中敷きのような足底板という装具を使い、膝関節への体重のかかり具合を代える方法もあります。
このような保存治療でも痛みが改善しない場合は、手術を考慮します。手術方法には変形を矯正する骨切り術や、さらにすり減った軟骨の表面を金属などの人工材料で置き換える人工膝関節置換術などの手術方法があります。

手術治療について

  • 高位脛骨骨切り術(図3)
    関節軟骨を温存し、O脚をX脚に矯正する手術で、関節軟骨のすり減りや変形の程度が比較的軽い方で、若い年齢(主に50代以下)を対象に行っています。
    高位脛骨骨切り術

    術後約4週間での全荷重歩行を目指し、入院期間は約6週間です。

  • 人工関節置換術
    関節軟骨のすり減りが強く、骨が露出し、変形が強い場合に、また関節リウマチで関節内全体の軟骨がすり減ってる場合などに行います。当院では、軟骨のすり減り部分、膝の曲がり伸びの程度、年齢を考慮し、次の2種類の手術方法を選択します。
    ・人工膝関節全置換術
    ・人工膝関節単顆(片側)置換術
  • 人工膝関節全置換術(図4)
    痛んだ関節軟骨を人工材料に置き換えて、同時に変形も矯正し、膝機能を回復させます。
    人工膝関節全置換術
    人工膝関節全置換術
  • 人工膝関節単顆(片側)置換術(図5)
    痛んだ軟骨部分が一部分で、膝の曲がりや伸びの良い場合、また変形がなく、骨壊死(骨の内部の一部の血流が悪くなり、軟骨面が潰れてしまう疾患)の場合に、人工材料に一部を置き換えます。
    人工膝関節単顆(片側)置換術

人工膝関節全置換術、人工膝関節単顆(片側)置換術共に、術後3日目から荷重歩行、可動域改善のリハビリテーションを開始し、入院期間は3~4週間です。

前十字靭帯損傷

前十字靭帯は、膝関節内のほぼ中央にあり、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)を支える靭帯で、主として脛骨が前方にずれるのを防ぐ役割をしている重要な靭帯です(図1)。このためこの靭帯が損傷された状態では脛骨が前方にずれやすく膝関節の不安定性がみられるようになります。

前十字靭帯損傷

受傷機転

主にスポーツ時に膝関節を急激に捻ったりする場合に多く見られ、他人との接触がない場合にも起こるのが特徴的です(図2)。損傷時は膝が、“ガクっ”とはずれたような感じや、膝の中で何かが“ブチッ”ときれた感じを自覚し、徐々に膝が腫れてきます。

受傷機転

診断

受傷直後は腫れと痛みが強く、レントゲン検査では不安定性を評価することが難しく、診断にはMRI検査が必須です(図3)。

診断

経過

前十字靭帯を損傷しても、半月板損傷や他の靭帯損傷を合併しなければ、痛みと腫れは徐々に改善し、通常2~3週間で痛みも曲げ伸ばしの制限もなくなり、日常生活には殆ど支障がなくなります。ただ、靭帯は自然には治癒せず、膝関節の不安定性は残存します。運動を余りしない方の場合は靭帯断裂を放置しても問題にはなりませんが、若年者や、中高年でもスポーツ活動を頑張っている方は放置すると、膝くずれを繰り返し、二次的に半月板や関節軟骨を損傷する恐れがありますので、手術が必要です。

手術方法:前十字靭帯再建術

過去には断裂した靭帯を縫合する手術も行われましたが、縫合した靭帯が正常の靭帯の強度に戻ることはなく、現在は一定以上の強度を有する組織で再建する方法が行われます。再建材料は3~4種類ありますが、当院では骨付き膝蓋腱を第1選択として使用しています(図4)。
関節鏡視下に、大腿骨、脛骨の解剖学的靭帯付着部の適切な位置にトンネルをあけて、その中に移植腱を通し、移植腱の骨の部分を骨トンネルにネジ(骨吸収スクリュー)で強固に固定します(図5)。
骨付き膝蓋腱採取部は、腱の部分は再生され、骨欠損部分は骨移植します(図6)。

手術方法
手術方法

入院は10日間ですが、術後3か月までは前十字靭帯用の装具を使用し、その後ジョギング、ジャンプ動作を開始しますが、スポーツ復帰は個々の筋力の回復状態で異なりますが、最低でも6か月以降になります。

半月板損傷

概要

半月板は、膝の内側と外側にある弾力性のある軟骨(線維性軟骨)で、大腿骨と脛骨の間でクッションの働きをしており、膝の安定性にも関与しています(図1)。したがって、半月板が損傷を受けると、膝の痛み、運動制限(曲げ伸ばしができない)、引っかかり、水が貯まるなどの原因となります。

半月板損傷

受傷機転

スポーツで膝をひねったり、日常生活動作でつまづいたり、ひねったりすることで、大腿骨と脛骨の間で半月板がはさまれて損傷します。しかし半月板損傷初期では症状がない場合も多く、はっきりとした原因が確定できない例もあります。さらに、高齢者では、半月板も老化現象で変性しており、外傷がないのに損傷されて痛みやひっかかりを生じることがあります。

症状

断裂した半月板がはさまりこんで膝の動きが制限されるロッキング(嵌頓症状)は典型的ですが、損傷半月板に一致した痛み(内側半月板の損傷であれば内側)、違和感、ひっかかり、水がたまるなどの症状があります。

診断

患者さんの病歴と臨床症状が大切で、半月板損傷を疑ったら、MRI検査をします。レントゲン検査では半月板は確認できず、MRI検査で高率に確定診断ができます(図2)。

半月板損傷

治療

半月板断裂と診断され、ロッキングや明らかなひっかかりの原因と確定できれば、手術治療を考慮します。しかし半月板断裂があっても、痛みのみの場合は、投薬、関節内注射、安静などで症状が軽快する可能性があり、変形性膝関節症、骨壊死など他の疾患に注意しながら経過をみます。しかし症状が続き、またはいったん良くなっても再発する時には、手術を考慮します。

手術方法

半月板に対する手術は、部分切除術と縫合術があり、断裂の状態(形式、部位、大きさ)によりいずれかの方法を選択します。原則、当日入院・手術、翌日退院の1泊2日での入院になりますが、痛みや、腫れの程度によって、入院期間は延長可能です。

半月板の血行

部分切除術か、縫合術かの術式選択には半月板への血流が関係し(図3)、半月板の辺縁部の縦断裂が縫合術の良い適応になります。

半月板損傷

半月板部分切除術(図4)

下図のような断裂では、断裂している部分のみを最小限切除する部分切除術を行い、当日から全荷重歩行を許可します。

手術方法

半月板縫合術(図5)

断裂部位が辺縁部の血流の良い部分で、縦断裂の場合は、断裂部分を縫う修復術を行いますが、松葉杖使用の約2週間の荷重制限をします。

手術方法

膝蓋骨脱臼(膝蓋大腿不安定症)

概要

膝蓋骨脱臼は、いわゆる“お皿”がはずれる状態で、関節の柔らかい、若い女性に多くみられます(図1)。

膝蓋骨脱臼

受傷機転

スポーツ時に膝関節を急激に捻ったり、日常生活動作でも膝が内側に入る姿勢になった場合に生じることがあります。通常は膝を伸ばすと自然に戻りますが(整復)、はずれたまま病院に来られることもあります。

診断

診断は、患者さんの病歴が重要ですが、骨折を伴う場合は膝の腫れと痛みがあり、レントゲン検査でも診断が可能です。但し、前十字靭帯損傷と受傷機転が似ている場合もあり、確定診断にはMRI検査が必須です。右図のMRI画像では膝蓋骨が外側(右側に)ずれているのがわかります。(図2)。

診断

経過

初回脱臼で骨折を伴わない場合は、腫れや痛みが消失したら、膝蓋骨用サポーター(図3)などで経過観察とします。初回脱臼でも比較的大きな骨片を伴う場合、膝蓋骨の不安定が強い場合、また何度も脱臼を繰り返している場合(反復性膝蓋骨脱臼)は手術が必要になります。

手術方法

手術は、膝蓋骨が脱臼しないように、膝蓋骨の位置、傾きを正常な位置に戻し(図4)、更に膝蓋骨の走行を改善させる(図5)アラインメント手術を行います。術後約10日で、膝蓋骨用サポーター装着し、全荷重歩行を許可し、入院期間は約3週間です。

手術方法
手術方法