疾患について
膝の疾患
肩関節前方不安定症
概要
肩関節は小さな肩甲骨関節窩に比べて大きな上腕骨頭が乗っているために可動範囲が広い反面外れやすい(脱臼しやすい)不安定な関節です。
転倒や転落で後ろ手をついたり、ラグビーなどのコリジョンスポーツをしていて腕を後ろに持っていかれたりしたときに前下方に脱臼してしまう事がほとんどです。
特に若い人で活動性の高い人が脱臼を繰り返す事が多く、反復性肩関節脱臼と呼ばれます。
前下方の関節唇関節包靱帯複合体が関節縁と肩甲骨頚部から剥がれてしまっている状態はバンカート病変と呼ばれています。
病歴と症状
もともと肩がゆるい肩関節不安定症の人もいますので、初回脱臼のエピソードは重要です。
2回目以降は軽い力で肩が外れたり、寝返りをしたり服を着替える際にも外れそうになる不安感があります。
検査
単純X線、MRI、造影MRI(造影剤や水を使用)、必要に応じてCT、3D-CTを行います。
治療
筋力訓練など理学療法はほとんど効果がないため、基本的には手術を薦めます。手術を希望しない場合は、病態を説明して肩を脱臼しないように動作に気をつけるように話します。手術は時間が経っても可能であるため、困ったときや予定を組めるタイミングで行うことも可能です。
術後の再脱臼率は8%程度と報告されています。
手術
目的は脱臼で剥がれた前方の関節唇と関節包靱帯を元の位置に修復することです。臼蓋の骨折を伴う場合は骨片の整復も行います。当院では主にビーチチェア体位で行います。
鏡視下バンカート修復術
鏡視下バンカート修復術は関節鏡を使用した鏡視下操作で剥離して弛緩してしまった関節唇関節包靱帯複合体を上方に引き上げて緊張させることで脱臼させない方法です。関節窩縁の骨に糸の付いた(骨吸収性の)アンカーを数個打ちこんで、関節唇関節包靱帯複合体を引き上げて固定します。
烏口突起移行術(Bristow法・Latarjet法)
強い負荷が肩関節にかかるコンタクトスポーツやコリジョンスポーツをしている場合、バンカート修復術のみでは一般に再脱臼率は30%と高いため、再脱臼のリスクを減らして競技復帰してもらうために当院では関節鏡下Bankart修復術に加えて烏口突起を関節前面に移行する手術を行っています。
後療法
術後約3週間は装具を用いて肩をできるだけ安静に保ち、創部や修復部の治癒を待ちます。
術後3か月は慎重に関節可動域訓練を行い、柔軟性の再獲得を図ります。関節可動域が回復したら負荷をかけて筋力トレーニングを行います。手術後4−6か月で競技に戻ることが目標となります。
拘縮肩
概要
肩関節は容易に拘縮を起こしやすく、肩の疾患の中で最も頻度が高い病態です。その定義は他動的にも自動的にも関節可動域の低下を生じることです。
原因
肩の酷使
スポーツ活動よりも仕事での酷使が多く、水平位置より上方への繰り返し動作があり、日常の動作でも生じます。
すべてにおいて痛みは拘縮に先行し徐々に進行していきます。
石灰沈着性腱板炎
概要
石灰沈着性腱板炎とは肩の腱板内に沈着したリン酸カルシウム結晶によって急性の炎症が生じる事によって起こる肩の疼痛・運動制限です。
肩関節をほとんど動かせないような疼痛を認め、夜間に突然生じる激烈な肩関節の疼痛で始まる事が多いです。40~50歳代の女性に多く発症します。
肩よりも上腕に放散する痛みを訴える場合が多く見られます。
痛みで睡眠が妨げられ、関節を動かすことが出来なくなります。安静時にも続く自発痛があり、症状は2~4週で軽減します。
タイプとしては発症後1~4週、強い症状を呈する急性型、中等度の症状が1~6ヵ月続く亜急性型、運動時痛などが6ヵ月以上続く慢性型があります。
病因・病態
腱板の石灰化の原因は明らかになっていませんが、この石灰は当初は濃厚なミルク状で、時がたつにつれ、練り歯磨き状、石膏状へと硬く変化していきます。石灰が、どんどんたまって膨らんでくると痛みが増してきます。そして、腱板から滑液包内に破れ出る時に激痛となります。
診断
X線(レントゲン)撮影(図1)によって腱板部分に石灰沈着の所見を確認できます。石灰沈着の位置や大きさを調べるために3D-CT(図2)なども行なわれます。腱板断裂の合併の診断にMRIも用いられます。
治療
急性例では、激痛を早く取るために、腱板に針を刺して石灰化した部分を破り、ミルク状の石灰を吸引する方法がよく行われています。安静と消炎鎮痛剤の内服、ステロイドと局所麻酔剤の滑液包内注射などが有効です。石灰化した部位への体外衝撃波で石灰を消失または縮小させる方法を行う病院もあります。また、シメチジンなどの胃薬によって石灰化の吸収が促進されることも知られています。
ほとんどの場合、保存療法で軽快しますが、亜急性型、慢性型では、石灰沈着が石膏状に固くなり、時々強い痛みが再発することもあります。痛みが強く、不眠になり日常生活にとても支障をきたし、手術を希望された場合は鏡視下手術で摘出することもあります(図3、4、5、6、7)。
疼痛が軽快した後、温熱療法(ホットパック)や運動療法(拘縮予防や筋肉の強化)などのリハビリを行います。鎮痛前の筋力訓練は痛みと拘縮の原因になるので禁忌です。
肩関節痛を生じる疾患―腱板断裂について
いわゆる「四十肩・五十肩」では、特別な原因がないのに肩の動きが悪くなり痛みを伴います。洗髪や服を着る際に、肩関節がこわばって痛みが出て腕を動かしにくくなります。放置しておくと関節が硬くなってますます動かせなくなる可能性があるため、専門医を受診することが大切です。ここで正しく診断し、的確な治療方針を決めていきます。
腱板断裂
概要
「腱板断裂」は肩甲骨と上腕骨をつなぐ腱が切れている状態です。肩の運動障害・運動痛・夜間痛を訴えますが、夜間痛で睡眠がとれないことが受診する一番の理由です。
運動痛はありますが、多くの患者さんは肩の挙上は可能です。肩関節の診察のほか、レントゲンやMRIといった画像検査で状態を正しく捉える必要があります。
レントゲンでは肩峰と骨頭の間が狭かったり肩峰の下に骨棘が飛び出したりしています(図1)。MRIでは上腕骨頭の上方を覆っている腱板に断裂の所見がみられます(図2)。
腱板断裂の治療
保存療法
関節注射や薬(内服薬や湿布)、理学療法(ホットパック、筋力訓練や可動域訓練などのリハビリテーションをする)で痛みや運動の改善効果が期待できます。
手術治療
しかしながら保存療法で症状が軽快しない場合、特に肩が使えないと仕事にならない、肩が痛くて寝付けない、目が覚めるなど日常の生活に支障をきたす人には手術による治療をすすめることになります。
手術では切れてしまった腱板を縫合して肩の痛みをとって力が入るようにすることが目標です。手術には直視下手術と鏡視下手術があり、当院では主に鏡視下手術を行っています。
鏡視下手術の実際
鏡視下手術のメリットは数カ所の1cm程度の小さな傷で肩関節を広く見ることができ、状態を詳しく見た上で腱板を縫合できるため小さな侵襲で手術を行えることです。
縫合糸と吸収されて骨に置き換わる人工骨でできたアンカーを使用して腱板の縫着を行います。
術後のスケジュール
入院期間は4泊5日で、手術翌日より歩行ができてシャワーや着替えも可能です。
術後3~4週間は特別な装具(図7)を装着し、肩をできるだけ安静に保った後、慎重に関節可動域訓練、筋力トレーニング、日常生活動作の練習を行います。
通常の活動への復帰には3カ月程度、重労働やスポーツには6カ月程度をかけてリハビリテーションを進めていきます。